事業計画書をつくろう 後編
5.お金の流れ考えてみよう
次にお金の流れを把握しましょう。前述の損益計算見込みがお金の流れと一致するならば、話は簡単なのですが、現実はそう うまくいきません。
その理由は、事業の取引では、モノやサービスを提供してから、実際に入金されるまでに時間差が生じる場合があるからです。反対に、モノやサービスを受けた場合は、請求書が発行されて実際に支払をするまでに時間差が生じる場合もあると思います。
特に事業での資金のやり取りは、期日を決めて行う場合があり、モノやサービスの引き渡しと、その対価の支払いのタイミングが異なるケースが普通に想定されるからです。
さらに、こういった商売の取引とは別に、お金の貸し借りや、分割払い、後払いや先払いなど、資金そのものの取引というものが存在します。そのため、損益計算のみでは、お金の流れを全て把握することはできないため、お金の流れを踏まえて、資金繰りを把握できる表を作成する必要があります。
余談ですが、決算書の計算部分は、貸借対照表と損益計算書という表形式で作成されます。貸借対照表は前述の資金そのものの流れを計算したような表になっており、損益計算書は 収益から費用を引いて利益を計算する表になっています。そして、このどちらにも当てはまらないような取引は、貸借対照表の純資産の部に記載されることになっています。
事業計画書のベースは、この資金繰りの計算表になるのですが、キャッシュフロー計算書と言われる集計表と似ていて、共通する部分が多いです。
それでは、お金の流れを把握する計算表の作成手順を説明していきます。おおまかな流れは、元手となる資金に、作成した損益計算見込みを加えて、お金の流れを反映する計算を加えて計算します。
- 元手とも言える、もともと持っている現金や貯金の金額を先頭に表示します。
- 次に、~事業計画書を作ろう 全編~で作成した、『損益計算見込み』を加えます。
- 売掛金、買掛金、棚卸などの期ズレの影響額をプラスとマイナスに分けて計算します。
- 借入金や貸付金などの、お金の貸し借りに関する、借入と返済の変動額を計算します。
- 減価償却などの、支払いをした年度と、経費になるまでの期間がズレるものを調整します。
- その他、少し特殊な計算をする取引の調整を行います。例えば、固定資産売却益などは、売却代金から売却時の残存価格を差し引いた額が儲けとして計算されます。この固定資産売却益は、売却入金額より残存価格の分だけ少なくなります。この場合の、入金額と儲けの差額を反映して、資金の流れが正しく計算されるように調整することになります。
- 最後に、上記1~6の差し引き金額を表示して完成です。この金額が、現金預金の計算上の残高となります。
6.現状と過去の実績を把握しよう
いよいよ事業計画書の作成もゴールが見えてきました。これまで説明してきた1~5の作業で、現在進行中している事業年度の計画書が完成します。この事業計画書を、『直近事業計画書』と私は名付けています。次の作業は、既に決算を終えている、過去の事業年度の事業計画書、いわゆる『過年度実績』を事業計画書と同じ形式に表現することになります。これを少し長いですが…『過年度実績に基づく事業計画書』と私は呼んでいます。
『過年度実績に基づく事業計画書』の作成には、絶対に守るべき以下のルールがあります。
- 『直近事業計画書』と同じ形式で作成する。
- すでに確定した実績がベースとなるため、絶対に金額や数値を変更しない。
- 過去から直近までの事業年度が、繋がる形で作成する。
仕上げに、『過年度実績に基づく事業計画書』と『直近事業計画書』を1つの表にまとめて、時系列順に並べて比較しやすい形にします。
最後に、売上や諸経費などの変動について、事業年度の経過や出来事を踏まえた分析を行い、その結果として何が言えるのかを まとめます。分析とまとめのコツは下記の内容を参考にしてください。
分析&まとめ のコツ
- 変動した理由や原因を盛り込む
- 良い方に変動した場合、それが意図して実現できた内容であればアピールする。
- 良い方の変動が、今後も継続して期待できる場合は、その効果が続く期間と、どの位の収益を期待できるかを記載する。
- 悪い方に変動した場合は、原因を解明して改善策を盛り込む。
- 悪い方の変動を改善できる場合は、いつまでに改善できるかと、それによる損失見込みを参考程度に記載する。
7.将来の計画を反映して計算しよう
『直近事業計画書』を基準にして、将来の3~5事業年度分の予測事業計画書を作成していきます。将来の事業計画書を作成する理由は、事業計画書を提出する相手に対して、会社や事業の将来性・優位性をアピールするためです。
これまでの手順で 『過年度実績に基づく事業計画書』 と 『直近事業計画 』を作成して、過年度から現在までの収益やお金の流れを分析できていると思います。この分析により把握できる、各項目の変動率を利用して、将来の事業年度の各項目の予想金額を計算していきます。
基本的な計算方法は、売上の増減に対して変動する項目と、期間が経過するにつれて変動する項目に分けて予想金額を計算していくのですが、下記の項目を考慮してください。
変動費 | 売上高が変動すると、比例するように増減する費用 |
固定費 | 家賃やリース料のように、金額が変動しない費用 |
準固定費 | 料金が段階的に設定されているようなサービスなど。 例えば、ソフトのアカウント契約のように、使用者が3人までは500円、4人から7人までは700円、10人上は800円のように、一定の使用人数おきに料金設定が変動するケースが該当する。 |
準変動費 | 光熱費などのように、基本料金は固定額で、使用量に応じて料金が変動計算されるものが該当する。 固定部分+変動部分で計算されている経費。 |
特別費 | 上記のどれにも該当しないような、通常では発生しない事故や災害などによる損失などが該当。 |
いよいよ事業計画書の『将来予測』の部分の作成手順を説明していきます。下記の手順で、『直近事業計画書』の1年後、2年後、3年後・・・と順番に作成していきます。
『将来予測』は、まず最初に 『直近事業計画書』 と同手順・同様式で基礎的部分を作成します。次に、今後計画している内容の影響額を反映した将来計画部分』を追加していきます。
『将来予測』 の基礎的部分の作成
『過年度実績に基づく事業計画書』 と 『直近事業計画』を比較して、売上や諸経費などの項目が、1年ごとに どれくらい変動しているかを読み取ります。変動には、一定額が変動する場合、一定割合が変動する場合、変動しない場合が考えられます。その変動を続けた場合、 『直近事業計画』 の1年後の、予想される結果を表にまとめ、それを2年後、3年後と続けて作成することで完成します。
『将来予測』 の将来計画部分の作成
将来計画部分は、今後予定している売上拡大計画、経費削減計画や、借入計画などを記載して、その計画の結果、売上や諸経費などの各項目が、いくら変動するかといった内容を、表に追加していきます。
8.以上をまとめて事業計画書を作成しよう
ここまでの内容を表にまとめ、解説とアピールを書き加えていくことで事業計画書が完成します。事業計画書の作成目的は、取引先に対する提案や自社の経営分析・業務改善など様々です。特に第三者に提出するときは、経営者自らが熱意をもって、相手に提案することが最終目的となります。そこで事業計画書は重要な提案アイテムとなりますので、ご自身で作成に関わり、内容を理解するようにしてください。
まとめ
事業計画書の作成は、時間と知識が求められる作業ですが、作成困難なものではありません。ただし、最低限必要な内容を盛り込まないと、せっかくの事業計画書の評価が低くなり、時間と労力のムダ遣いとなるリスクがあります。この記事の内容をおさて、作成には必ずご自身が関わるようにしてください。信用できる方や専門家に依頼することは問題ありませんが、丸投げだけは絶対にしないでください。
最後に、事業計画書の作成の手助けになるツールを現在作成中です。完成したら、下記のリンクからダウンロードできるようになりますので、よろしければ定期的にこの記事を見に来ていただければと思います。