コロナ禍の借入状況や売上減少など経営の実態
新型コロナウィルスの影響で売上が減少して特別貸付を受ける法人や事業者が増加しているようです。私が担当しているお客様も例外ではなく、むしろネットやマスコミで言われている情報以上に苦しい状況にある印象を受けています。
経営者の方からは、コロナ禍における他の会社の状況を聞かれる事が多くなりました。他の企業や経営者の苦しい状況を知ることで、ご自身の苦しい現状が本当に大丈夫なのか?という不安な気持ちを少しでも軽減したいのではないでしょうか。本記事では、私が収集できる範囲での統計情報をお伝えしたいと思います。
私のお客様の殆どが、年間売上高が1億円以下かつ従業員が10人以下の中小企業です。この範囲内の経営規模に該当する方には、本記事はより適切な情報になると思います。ニュースの情報やコロナ対策などを聞いていて違和感しか感じないのは、実態とはかけ離れているからだと私は考えています。
企業倒産の件数に関するニュース
東京商工リサーチの『全国企業倒産状況』資料に関するニュースで、2021年上半期の倒産件数が2020年同期比較で23.9%減少しており、この倒産件数は過去30年最少というものです。このニュースに何より違和感を感じるのは、コロナ禍の苦しい状況にもかかわらず倒産件数が減少しているという点と、この倒産件数にコロナ関連の倒産も含まれているという点です。
東京商工リサーチの統計には間違いはないのですが、この情報を明るい情報として解釈するのは間違っていると私は考えます。その根拠は後程説明しますが、まずは次の表をご確認ください。年度別の全国の倒産件数と休廃業件数をまとめたものです。
東京商工リサーチ、帝国データバンク、国税庁の資料を参考にしたデータ
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
倒産件数 | 8,405 | 8,235 | 8,383 | 7,773 | 5,915 |
休廃業件数 | 40,909 | 46,724 | 43,348 | 49,698 | 44,976 |
合計 | 49,314 | 54,959 | 51,731 | 57,471 | 50,891 |
申告法人数 | 2,861千 | 2,896千 | 2,929千 | 2,949千 | 2,969 |
休廃倒率 | 1.72% | 1.89% | 1.76% | 1.94% | 1.71% |
ちなみにサンプルは少ないですが、私が調査できる範囲の倒産・休廃業件数は次のとおりです。
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
倒産件数 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
休廃業件数 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
隠れ休廃業 | 0 | 2 | 1 | 1 | 0 |
合計 | 1 | 3 | 2 | 2 | 2 |
実休廃倒率 | 1.53% | 1.53% | 1.53% | 1.53% | 3.07% |
自分で作成しておいて言うのもなんですが、ありえない現実と言える内容が表中の『隠れ休廃業』です。自然消滅に近いのですが、実質的には休廃業の状態であっても経営者と連絡がとれず税務署等へ廃業届を提出できないケースです。中小企業を担当していると『隠れ休廃業』の発生頻度は高く、表の数値から読み取れるように休廃業の半分がそうなってしまうと言われても違和感がありません。この『隠れ休廃業』は国や統計作成者は廃業を把握できないので、実際の休廃業は統計資料より何割増で多い事が予想されます。ちなみに『隠れ休廃業』という言葉は存在しない私が発明した用語になります。
報道される内容と現実との乖離
倒産件数が減少したということは喜ばしいニュースですが、会社経営の現実はコロナ禍になる前と比べて相当厳しい状態になっています。実はお店がつぶれたとか会社がつぶれたという状態は、倒産だけではなく休業や廃業も加わります。実は倒産情報というのは、破産・会社更生・民事再生など裁判上の手続きを経たものが集計されているようです。つまり裁判上の手続きをしない休業や廃業は含まれていません。中小企業の場合は、倒産をせずに休廃業するケースが多いです。理由は次のとおりです。
- 裁判手続きを経て事業が倒産する場合、社長も巻き込まれて破産を免れないケースが多い
- 金融機関からの借入額が数百万円以内であるケースが多い
- 経営者はできる限り破産をしたくない
- 倒産して破産か廃業して社長がその負債を引き継ぐという選択肢では後者が選ばれやすい。
コロナ禍前後の借入状況
コロナ対策の緊急融資などで、通常ではあり得ない金額の借入ができた企業が多く見受けられます。この制度により助かった経営者の方は多いと思います。当面のピンチをしのいで、コロナ禍が収まってから立て直す方法は現状の最善策のひとつであることは間違いありません。問題は借入金額が大きすぎる点と、据え置き期間が3年で最長返済期間が15年と長いという点です。おそらく、コロナ禍前の資金繰り状況に回復すると想定して今後の借入金返済計画をシミュレーションした場合に、返済が厳しいと予想される会社は相当多いと思います。つまりは、コロナ禍の大ピンチをしのぐために問題を先送りにしただけの状態と言えます。
中小企業のコロナ禍前後の借入状況と詳細(筆者調べ)
※コロナ禍前の年間売上に占めるコロナ禍後の借入総額の割合分布
(例:コロナ禍前の年間売上が1,000万円の会社がコロナ禍後の借入残が600万円の場合→600÷1,000=60%)
コロナ禍前 | コロナ禍後 | |
40% 以内 | 13 社 | 14 社 |
40~60% | 3 社 | 4 社 |
60~80% | 2 社 | 4 社 |
80~100% | 0 社 | 0 社 |
100% 超 | 0 社 | 3 社 |
合計 | 18 社 | 25 社 |
借入者率 | 32.7% | 45.4% |
借入事業者の状況分析
コロナ禍前は最大限に借入がある事業者でも年間売上対比80%の借入額を超えていません。コロナ禍前の売上対借入比率40~60%の3事業者のうち2者は、コロナ禍前から返済不能に陥っておりリスケといって金融機関との相談により利息のみを返済する契約になっていました。また60%超の事業者のうち1事業者は自社ビル用の借入返済中であり、もう1者はコロナ禍前に売上が半分以下に落ちており社長が返済資金を立替続けている状況です。
コロナ禍後には借入をしている事業者の割合が全体の半数近い値になっています。さらにコロナ禍前から借入をしていた18事業者のうち3事業者はコロナ禍で完済しているので、新規借入件数は実質10事業者増加しています。
従来、運転資金の借入可能額の目安は、直近3年における年間売上の最大額の30~40%とされています。これを超える借入となると場合、事業投資の場合を除いて高確率で返済不能になることが予想されます。コロナ禍前で売上対比40%超の借入をしている事業者の4社者のうち2者が返済不能になっていました。コロナ禍後の売上対比40%超の借入をしている事業者は11者に増加しています。もしコロナ禍の影響が回復したとしても、何かしらの救済政策が打ち出されない限り、返済不能に陥る事業者はかなりの数になると思われます。そのタイミングは現在の政策により先送りされており、返済据置期間が終わる3年後以降に社会問題となる恐れがあります。なぜなら、サンプル55者のうち10社が休廃業予備軍とすれば、5事業者中1者の割合で潰れる可能性を暗示しているからです。
金融機関のコロナ禍前後の融資状況
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
公庫新規貸付額 | 14,850億 | 12,331億 | 11,474億 | 45,648億 |
公庫貸付残高 | 55,141億 | 53,269億 | 52,081億 | 82,181億 |
金融機関貸付残高 | 170,200億 | 170,200億 | 182,928億 | 194,884億 |
2019年までがコロナ禍前で2020年がコロナ禍の状況に該当します。コロナ禍により日本政策金融公庫の新規貸付年額が例年の3倍超となり、貸付残高も5割超増となっております。それだけ、コロナ禍の影響により融資を受けた事業者が増加し、高額の借入残高をかかえた事業者も増加したということになります。2021年の情報は翌年3月に公表されるのですが、2020年より悪化すると予想されます。
コロナ禍の売上への影響
コロナ禍の影響で売上が減少した事業者は多く、私が関与する事業者の状況を分析すると次の表のとおりです。
コロナ禍後の売上減少率分布(筆者調べ)
売上減少率 | 事業者数 |
90%超減 | 1 |
80%超減 | 1 |
70%超減 | 4 |
60%減 | 0 |
50%減 | 5 |
40%減 | 5 |
30%減 | 6 |
20%減 | 4 |
10%減 | 7 |
影響なし | 8 |
10%超増 | 2 |
20%超増 | 2 |
30%超増 | 5 |
合計 | 50 |
コロナ禍の影響は一過性のものだとすれば、あと1~2年でコロナ禍以前の状況に戻ると期待したいところです。事業経営において不測の事態は避けることができないものですが、それでも売上減少の許容範囲は30%減までではないかと思います。上記の表は私の知り得る範囲での統計ではありますが、全体の3~4割の事業者が将来的にも致命的な影響を受けています。この数値は、世の中の実質的数値とも乖離しないものだと思われます。この状況を救ったのが緊急融資なのですが、問題の先送りにしかなっておらず、近い将来の経営苦や返済苦などの問題は何一つ解決していません。
コロナ禍前後の赤字事業者の割合(筆者調べ)
コロナ禍前後の赤字事業者の割合を表にしてみました。実質赤字事業者という用語は存在しませんが、オーナー社長の給料が15万円以下の場合には、本来社長に支給されるべき金額があったものとみなして再計算した場合に赤字となってしまう事業者のことを表現しています。
2019年 | 2020年 | 2021年 | |
赤字事業者割合 | 33.9% | 39.6% | 41.5% |
実質赤字事業者割合 | 56.6% | 62.2% | 60.3% |
(給付金除外) | (56.6%) | (73.6%) | (71.7%) |
実質黒字事業者割合 | 43.4% | 37.4% | 39.7% |
(給付金抜外) | (43.4%) | (26.4%) | (28.3%) |
コロナ禍前から、赤字の中小事業者の割合は3割超と高く、実質的赤字となると5割超になります。コロナ禍後は赤字の事業者の割合が4割超で実質赤字の割合は6割超となってしまいました。さらに言うならば、通常支給されることが無い給付金の影響を差し引くと7割超の中小事業者は本業で実質赤字という状況になっています。
まとめ
繰り返しになりますが、コロナ禍による売上減少の影響はニュースやネットの情報以上に悪い状況です。売上減少や休廃業・倒産のリスクは一過性のものだと思います。これについては、政策的融資を受けたり救済的政策を活用してなんとか凌げているのが現状です。注意すべきは、許容範囲を超えた借入をしている場合の返済計画です。今回の政策では据置期間が最長3年で、返済が3年後からという事業者の方が多いと思います。なんとしてもこの苦境を乗り越えてください。具体的な提案ができる訳ではないですが、次の基本的な項目は見逃さずにおさえてください。
- 補助金、給付金、助成金など利用できる制度は利用する。
- 制度を利用する場合に要件や手続きなどがハードルとなる場合は、専門家への外注も視野に入れて諦めない。
- 早期に据置期間経過後の返済計画を立てて、少し不安な期間がある場合はあらかじめ金融機関に相談する。
- 広げすぎない範囲で新規事業や事業拡大を試みる。※この場合、初期投資に対して補助金制度があるものを優先検討する。
- 赤字部門があれば早期撤退や一部切り捨てを検討する。※この場合、事業譲渡で売却可能化も検討する。
少し厳しい考え方かもしれませんが、これから半年~1年の間に撤退や縮小を余儀なくされる会社は増えると予想されます。反対にとらえれば、この1年~2年を乗り越えさえすれば、競合が減り新規事業を切り開くチャンスが来る可能性は十分にあると思います。そのチャンスを逃さないためにも、今は我慢の時で力を蓄えるのが得策です。また、可能な政策的援助を受けられるときは積極的に検討してください。
苦しい状況にあるのは、ご自身だけではありません。やまない雨がないように、きっと明るい将来はやってくると思います。この記事が少しでも経営者の方の参考になれば幸いです。