事務所の移転マニュアル ~オフィス移転の注意点から必要な手続~




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事務所移転の理由は様々ありますが、どのオフィス移転においても共通しておさえるべき事があります。この記事では事務所移転で失敗にないように、必要な手続きと家賃交渉などオフィス探しのコツなどを紹介させていただきます。実は最近、私が所属する企業の事務所移転があり、賃貸営業出身の私の知識を活用する機会ありました。その時の実践で役立ったノウハウを記事にしています。

オフィス移転の流れ

オフィスを移転する場合、オススメの手順があります。状況によってベストな方法は違ってきますが、次の流れで進めていくと事務所移転がスムーズに行えると思います。

  1. 社内および関係者と協議する
  2. 既存の契約を洗い出す
  3. 必要な手続きとやるべき事を把握する
  4. 現在の事務所の大家さんへの交渉
  5. 新オフィスの物件探し
  6. オフィス移転計画をまとめて実行

1.社内および関係者と協議する

オフィスを利用する従業員や、移転により影響を受ける取引先などと協議して必要な内容を確認する。特に移転先候補については最重要項目です。従業員の意見を反映しなかったために、移転前後で大切な戦力が離職という最悪の結末だけは回避したいところです。あるいは、もともと退職を悩んでいた社員が移転を機に退職を申し出ることもあり得るので配慮が必要です。むしろ移転の際の経営者の姿勢や従業員や取引先への配慮が伝わり、より信頼関係が深まる場合もありますので、不満がでないよう関係者全員にとって有益な移転となることが理想です。

  • 移転時期
    現事務所の賃貸契約期間、新事務所の契約開始期間、業務の繁忙期などを考慮して移転時期を決める。
  • 移転先の最寄り駅またはエリア
    オフィス利用者の便を優先して、関係者の意見を取り入れて移転先を決める。
  • 移転作業の役割分担
    移転に必要な手続き、引っ越し作業、新オフィス探しなど必要に応じて役割分担して手配を依頼する。通常業務の状況も考慮に入れて無理に押し付けないように配慮してください。

2.既存の契約関係の確認

契約があるもの
 契約期間、違約金、縛り、移転の可否、契約書類、毎月の費用を確認する

  1. 賃貸契約
  2. 電話回線契約
  3. インターネット回線
  4. 水道光熱費契約
  5. リース契約
  6. 業種特有のソフトや契約
  7. アスクルなど備品購入先
  8. 銀行関係

住所の変更手続きが必要な相手

  1. クレジットカード関係
  2. 取引先
  3. 法務局
  4. 税務署
  5. 都税事務所
  6. 年金事務所(社会保険関係)
  7. ハローワーク
  8. 労働局
  9. 業種特有の許認可役所
  10. 集荷依頼している宅配便など

※3は司法書士、4~5は税理士、6~7は社会保険労務士、9は行政書士などの専門家に相談・依頼することをオススメします。

3.必要な手続きとやるべき事を確認する

必要な各種手続きとやるべき事を確認します。この際に手続き等を行う役割分担をしたり必要に応じて外注を検討してください。さらに、移転を機に契約の切り替えを検討してください。契約を乗り換えることで利便性が増したり、コスト削減できたり、キャッシュバックなどの特典をうけたりが期待できるからです。

忘れずにしておきたい手続きと作業

  • 郵便局への転送届
  • 賃貸借契約を確認して、契約期間、解約予告、違約金、敷金精算、などと確認して退去時期を検討する。
  • 名刺や封筒、備品など会社の名称や住所の表示があるモノの再作成
  • 引っ越し業者への相見積もり
  • 所有する備品を確認して、移転するもの、廃棄するもの、新調するものをリスト化する。

契約の見直しのを検討する

  • 銀行は移転先で最寄りの支店がある銀行への乗り換えを検討する。
  • リースや備品購入先や業務上使用しているソフトの乗り換えを検討する。それぞれのサービスの販売先と内容を調べて、複数候補から相見積もりをとって価格面と効率面を考慮して決定する。
  • 電話回線、インターネット、スマホ、電気契約はセットで考えてください。最近では、通信会社がこれらすべてを扱っており、セット契約の恩恵を受けられる可能性が高いからです。同時に、これらをまとめて乗り換えるキャンペーンを調べてください。家電量販店または代理店がキャッシュバックなどの特典を実施していることが多いです。

4.現在の事務所の大家さんへの交渉

現在の事務所の退去時期を大家さんに伝えて、状況に応じて次の交渉を行うことをオススメします。今までお世話になった大家さんに対して、感謝の気持ちを持って円満退去を心がけてください。

通常の入居者からの解約の場合

この場合は交渉できる項目は限定的でOKとなる可能性は低いですが、すんなり通るケースもあるので交渉するだけ損はありません。この場合の交渉項目は敷金返還関係になります。契約で敷金の取り扱いに関して、敷金償却と原状回復が盛り込まれている事が多いです。償却とは無条件に敷金の一部が返還されないことで、原状回復とは入居時点の綺麗な状態に戻すための費用負担のことを言います。交渉できる可能性があるのは次のとおりです。

  • 敷金または保証金の返還額の増額
  • 退去日の交渉(何かしらの事情が生じた場合に退去日の延長を可能とする特約など)

※次の入居者を紹介できる場合は、上記の交渉がとおる可能性が高くなります。また場合によっては、次の入居者に付加価値や営業権を有償譲渡することができたり、大家さんからの紹介料を期待できるケースがあります。もし次の入居者に心当たりがある場合は積極的に働きかけることをオススメします。

定期借家契約の満了をもって再契約がない通知を受けて解約の場合

定期借家契約の場合は、期間満了での退去を通知されてしまうと、大家さんの都合であっても期間満了で退去しなくてはいけません。この場合には、違約金や転居費用、営業補償などが支払われる余地はありません。ただし大家さんの厚意で転居費用など何かしらの負担をしてくれるケースもあるので、ダメもとで相談してみて損はないと思います。考えられる保証は次のとおりです。

  • 退去日の猶予や延長
  • 敷金または保証金の返還額の増額
  • スケルトン渡しの免除または工事業者の選択の許可
  • 退去までの一定期間の家賃減額やフリーレント
  • 転居費用などの負担
  • 営業補償金

大家さん都合で解約の場合

この場合は、退去により受ける損害+αの見返りが考えられます。場合によっては弁護士に依頼してまとめてもらう必要があります。基本的には大家さんの提示条件を聞いて納得できる場合は、その内容を誓約書または契約書として作成する形でよいと思います。提示条件に納得できない場合や、後のトラブルを回避したい場合は弁護士に相談するようにしてください。このケースで提示される金額の内訳は次のとおりです。

  • 退去日の猶予や延長
  • 転居費用(引っ越し代、諸手続き費用など)
  • 営業補償金
  • 退去までの家賃無料または減額
  • 敷金、保証金の全額返金(契約での償却や原状回復を実施しない)
  • スケルトン渡しの免除
  • 転居先が決まらない場合の一時入居先費用
  • 慰謝料

5.新オフィスの物件探し

移転先のオフィス探しの際は、できる限り従業員の意見を聞き入れる姿勢で臨むことをオススメします。もちろん決済者は経営者であり、意思決定の判断は管理者が行うというのは当然ですが、移転をきっかけに関係者との信頼関係が崩れたり、従業員の退職のきっかけになり得るリスクがあることを意識するようにしてください。移転をチャンスにするのか負担にするのかは気遣い次第です。

新オフィスの立地や条件など方向性を検討する

できる限り環境は変えない方が無難です。現在の事務所の最寄駅で今以上の間取りを探すことをオススメします。移転することを社内に通知して打ち合わせをするのも良い方法です。打ち合わせの目的は、従業員からの意見を募集することですが、移転計画に参加してもらうことで次の効果が期待できます。

  • 経営者の独断ではなく、従業員にも配慮があったことを認識してもらえる。
  • 移転計画を共有することで、組織の一体感が増したり協力者として動いてもらえるケースがある。
  • 色々な視点での意見や情報を得ることができる

諸条件の検討

家賃の上限、最寄駅、広さの下限などを決める。その際に特に注意が必要な項目を紹介します。

  • 定期借家契約は極力避ける(残念ながら定期借家契約の物件率は高くなっています)
  • エレベーターの有無
  • トイレは男女別で共用スペースにあって管理会社の清掃が理想
  • 居住用マンションの事務所使用の場合、靴を脱いで入室になるので より清潔な物件であること。
  • 居住用マンションの事務所使用の場合、モニター付きのオートロックが望ましい。
  • 居住用マンションの事務所使用の場合、来客制限、広告制限、登記の可否を確認する。
  • 耐震面を気にする場合は、1985年以降築または耐震改修工事の有無を確認する。

諸条件について、考慮することをオススメする項目は次のとおりです。

  • 最寄駅の選択は従業員、得意先、顧客訪問の順に優先をオススメ。(来店型の接客業の場合は得意先が最優先)
  • 住宅地の場合は環境は良いが、役所や銀行・店舗など利便性が悪くなる傾向。
  • 家賃は募集家賃を負担額、坪単価を価値と捉えるとわかりやすい。
  • 新事務所を広く使いたいが家賃的に制限がある場合は、移転先の事務所で次の工夫が考えられる
    • 内装工事を行い、壁面収納・床下収納・折り畳み家具・埋め込み収納を実装
    • フリーアドレスで専用デスクを減らす
    • 会議室や接客スペースが共用部分にある物件を探す

インターネットで新オフィスを検索する

検討した諸条件を賃貸物件検索サイトで検索する。

  • グーグル検索で、『最寄駅名』『事務所』『賃貸』で検索して広告を除いて上位のサイト
  • 検索の際、『賃貸』の部分を店舗または倉庫に変えて検索すると特殊な物件が見つかる場合もあります。
  • 検索サイトを利用したい場合は『アットホーム』『ホームズ』『不動産ジャパン』がオススメ
  • 居住用物件の事務所使用も検索したい場合は、賃貸検索サイト『スーモ』で詳細条件で事務所可で絞って検索
  • 複数会社から同一物件の募集がある場合は、募集条件に違いがないかを確認してください。基本的に募集条件は同じなのですが、貸主の場合は仲介手数料なし、媒介の場合は特典付きなど、条件が異なる場合もあります。
  • 事務所探しは、ネット検索+不動産屋さんへの依頼が効率的。
  • 依頼する不動産会社は5社程度を目安に、ネット検索で気になる物件を掲載している会社、ネット検索で最寄駅の物件をより多く掲載している会社、最寄駅の近くに構えている会社がオススメ。
  • 不動産屋さんへの依頼は、電話やメールで問い合わせて図面をもらう方法も効果的

実際に物件を内見して検討する

実際に物件を見せてもらう場合に、複数の候補がでてくると思うので短期間で集中的に見終えるようにしてください。理由は、良い物件ほどすぐに埋まって募集が終わってしまうからです。また、なるべく即決はしない方が良いですが、現状良い物件が無かったからといって、同条件で数か月など長期間探し続けるのはオススメしません。条件を変えない限り、待っていても良い物件が見つかるケースは稀です。本当の人気物件や好条件物件は、空室待ちになる事が多く、前入居者の退去前に次の入居者が決まるので、募集されないことが多いです。また、内見することができないデメリットがあるので、個人的には後述する家賃交渉で相場よりお得に借りる方法がオススメです。

内見の際には、不動産会社の担当が物件を案内してくれます。この時に優秀な担当がついた場合は、できればその人を頼ることをオススメします。短時間で優秀な人を見抜くことは難しいですが、説明が上手、質問への回答が的確、間違ったことを言わない、ミスをしない、時間を守る、ウソをつかないなど当たり前のことができているかを基準に、どれかが該当しなければ警戒するくらいで良いと思います。優秀な担当の場合に期待できることは次のとおりです。

  • 事務所探しのヒントをもらえたり、的確な提案が期待でき、よりよいオフィスに巡り合える可能性が高まる。
  • オフィス移転や経営関連の有益な情報提供に期待できる
  • 契約の手続きにミスや二度手間が少なくスムーズに完了できる
  • 転居後のトラブルの発生率が少ない
  • 交渉をより有利により確実にお願いできる

物件をお得に借りるため交渉のコツ

家賃など条件交渉額の目安と難易度を紹介します。

交渉条件交渉目安成功率
家賃募集賃料の10%以内△~〇
礼金1~2か月分
フリーレント2か月前後〇~◎
家賃発生日の先送り1か月~6か月△~◎
期間限定の家賃減額募集賃料の50%以内かつ6か月以内×~△
敷金・保証金1~2か月分×~△
敷金償却・原状回復免除または減額×~△
特定条件の追加事務所可(〇)、広告可(〇)、共同事務所(△)又貸し可(×)、×~◎

交渉の注意点

交渉をして条件がとおった場合は、原則的に契約確定を約束することになります。もし交渉後にキャンセルしたり、同時に複数物件の交渉を行ったことなどが発覚した場合、同一の大家さんや管理会社から今後の取引NGを宣告されるケースが多いです。

まとめ

移転先のオフィスが決まったら、一連の手続きを実行して事務所移転完了となります。かなり労力のかかる作業になりますが、やり方次第で負担が全然違ってきます。また、オフィス移転を前向きに捉えて計画して実行すればビジネスチャンスになり得ますが、何か間違えると業務に支障がでたり従業員を失ったりと失敗する可能性もあり得ます。皆様のオフィス移転が大成功となるように、この記事が何かのお役に立てれば幸いです。

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