税理士試験の受験を検討している人も現役の税理士試験受験生の方も、どの科目を選択するかは受験人生を左右するほどに重要な問題です。筆者は現役の受験生と税理士事務所職員の二足の草鞋を履いているので、今思えば早い段階で知っておきたかった真実の情報をお伝えします。
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どの科目を選択するべきか
どの科目を選択するべきか?これは受験生永遠のテーマであり答えがでない命題だと思います。もう一つは、どの科目から順番に受験していくかも重要な選択と言えます。そこで、受験科目選択の基準となる情報をお伝えしたいと思います。
受験科目選択の基準
- 業務との関連度や役立ち度
- 難易度またはボリューム
- 相性や興味の度合い
1.業務との関連度や役立ち度
税理士試験の勉強は、業務に役立つだけでなく就職活動が有利になる効果も期待できます。ただし、過度な期待は禁物で、試験勉強で得た知識が業務に役立つ場面は限定的であり、就職活動でも実務経験の方が重視される場合が多いのが実情だからです。それでも、筆者が業務に役立つと印象を持っている科目を独断でランキング順に紹介させていただきます。
- 消費税法
筆者一押しの科目です。消費税関係の実務でも、基礎的なところで理解が不足していたことに気づくことができました。就職活動でも、消費税の知識のあるなしは一定の評価を期待できると思います。少なくとも筆者が所属する事務所では評価されています。
- 簿記論または財務諸表論
簿記2級を理解できるレベルでも、中小企業の実務では十分に通用すると思われますが、簿記の勉強を突き詰めることで、初見の事例やわかりにくい取引であっても対応できる能力が養われる効果が期待できます。また、他の税法の試験や税務処理の実務の前提として会計処理が存在していることが多く、実務では常に接する科目と言えます。
- 法人税法
税理士事務所のお客様は、基本的に法人が大半を占めています。そのことから、法人税法の知識は実務と100%関連があると言えます。筆者は未学習の科目ですが、いまのところ業務で困ったことはありません。それでも、より良い仕事ができるようになるには法人税法の勉強は必要だと考えています。
- 所得税法
個人のお客様の確定申告と直結する科目なので、所得税法も業務に役に立ちます。ただし、税理士事務所は法人のお客様をメインにしていることが多く、毎月発生する法人税申告と比べると、1年のうち3月の確定申告の時期に集中する所得税申告の知識が活躍する場面は年1回の印象があります。それでも、法人の社長の確定申告や個人の法人成り経由の優良企業を育てる意味でも勉強する価値の高い科目になります。
- 相続税法
税理士事務所の特色によりますが、相続を強みにしていない限り、法人税・消費税・月次会計メインの事務所が多いと思います。理由は、相続関連業務は高額報酬や付属収入を期待できる反面、専門性が高くリスクが高いからです。それでも、相続関連の知識があればお客様からの依頼や収入につながる可能性が高いので、勉強する価値が高い科目と言えます。
ここまで科目と業務の関連を説明させていただきましたが、業務との関連や有効性を重視するよりは、何の科目であろうと最短で税理士試験に合格することの方が重要だと筆者は考えます。5科目に合格してから、自分にとって必要な税法の勉強を始めるというのも賢い選択の一つだからです。
2.難易度またはボリューム
税理士試験の科目ごとのボリュームは、色々なサイトに勉強時間の目安のような記載がありますが、筆者とその受験仲間の感想や実績によると、我々一般人には到底合格レベルに達することができるような時間設定ではありません。ちなみに、よくみかける目安時間を紹介させていただきます。
税理士試験の科目ごとの勉強時間で紹介されがちな時間
科目 | 参考勉強時間 |
法人税法または所得税法 | 600~700時間 |
簿記論または財務諸表論 | 450~500時間 |
相続税法 | 450時間 |
消費税法 | 250~300時間 |
固定資産税 | 250時間 |
事業税または住民税 | 200~250時間 |
国税徴収法または酒税法 | 150時間 |
次に筆者の受験仲間の情報をもとに、各科目に合格した人の勉強時間と受験して不合格となった人の勉強時間を紹介させていただきます。※情報をもらえた科目のみの紹介になります。
- 所得税法
毎年1000~1300時間勉強して3年連続不合格
- 簿記論または財務諸表論
700~800時間で合格
- 消費税法
毎年800~1200時間勉強して4年目に合格
毎年600~800時間勉強して3年連続不合格
毎年200~300時間勉強して3年連続不合格
- 住民税
毎年1000時間前後勉強して2年目に合格
- 酒税法
600時間勉強して1年目で合格
- 国税徴収法
毎年200~300時間勉強して3年連続不合格
このサンプルの受験者レベルが全受験生の平均的レベルと同等と仮定した場合、税理士試験の受験情報サイトで言われている勉強時間の倍がんばっても合格できない可能性が高い!という捉え方が正しいと言っても過言ではないと思います。
この勉強時間とは別に、受験科目ごとの難易度も想定する必要があります。その難易度の種類について大別すると、次のような難易度タイプに分かれます。
- 受験者のレベルによる難易度
各科目の受験者層によって、受験者のレベルの違いのようなものがあることが想定されます。初学者が多い科目より複数科目合格者が受験するような科目は、受験者レベルが高く難易度が高いと考えられます。
〇初学者が多めの科目:簿記論、財務諸表論
〇複数科目合格者が多めの科目:法人税法、所得税法、相続税法
- ボリュームが少なく高得点勝負による難易度
ミニ税法とも呼ばれる学習ボリュームが少な目の科目は、勉強時間が少な目で合格レベルに達すると言われています。確かに勉強時間は少なく済むかもしれませんが、高得点勝負となりミスが許されない試験となってしまいます。どれほどの実力があっても1ミスで不合格となったり、合格レベルでありながら何回も不合格となるような壁が存在します。もはや合格レベルに達したうえで運勝負と豪語する人もいるほどです。
〇該当税法:国税徴収法、事業税、住民税、酒税法、固定資産税
筆者が導き出したボリュームに関する結論
- 各科目の勉強時間は、ネットでよく見る目安時では合格できない!
- 同一科目の複数回受験者であっても、累計勉強時間が多いからと油断できない!
- 受験科目数は1年に1科目が鉄則!複数科目受験は避けるべき!!
3.相性や興味の度合い
科目の性質による相性のようながあるのですが、ここでは特徴のある科目を紹介していきます。
- 計算100%の科目
簿記論は計算が100%で理論はありません。
- 理論100%の科目
国税徴収法は理論100%の科目です。計算はゼロというわけではありませんが、他の科目のように電卓必須でスピード勝負という科目ではありません。
- 科目の関連性のある組み合わせ
下記の科目同士は学習内容に共通性があり、効率的組み合わせと言われる科目と言われています。
・簿記論&財務諸表論
・法人税法&事業税
・所得税法&住民税
科目への興味の度合について
税理士試験の勉強は苦行とも言える大変なものです。少しでも興味を持てる科目があるのであれば、その科目を検討することをオススメします。もし興味をもてる要素が無い場合は、実務での必要性やご自身との関連性などについて深堀りする感覚で勉強をするやり方もあります。例えば次のようなケースが挙げられます。
- 輸出や国際輸送関係の取引が多い顧問先があり、消費税法の特殊論点に関わる機会があった。
- 身内の相続関係で係る機会があり、相続税法に関連する内容を調べた。
- 家族の所得税確定申告の手伝いをして、所得税法の規定を確認した。
筆者がオススメする特徴ある科目と賢い科目選択の順番
科目の特徴から、現在筆者がオススメできる科目は次のとおりです。
- 簿記論と財務諸表論の同時受験
2科目同時受験をオススメする唯一の科目です。理由は単純で、学習内容がほぼ重複するからです。イメージとしては…
簿記論 :①個別計算問題+②総合計算問題
財務諸表論:①総合計算問題+②簿記・会計の理論
それぞれの総合問題は解答形式の違いでしかなく基本的に同じ知識で対応できます。簿記論にある個別問題は、総合問題の基礎部分を深堀したものであり、総合問題は個別問題の集合体とも言えるので基本的な学習領域は重複します。財務諸表論の理論は簿記・会計の理論なので、計算の知識と関連づけて学習することができます。2科目同時受験の勉強負担は増えますが、重複部分が多いので効率的に学習可能なのでオススメです。
- 国税徴収法
筆者が最もオススメする科目は国税徴収法です。理由は、他の税法と比較して法律の条文がすっきりしていて理解が進みやすい印象があるからです。さらに民法との関連もあり、宅建士または行政書士試験の受験経験者には相性がよい科目と言えます。
税理士試験でオススメの受験順番
筆者がオススメする税理士試験の受験していく科目の順番は、次の2通りのみです。
- 簿記論または財務諸表論から受験していく
この2科目は税法科目と比較して、独学でも十分に合格が狙える可能性がある科目なので、まずは必修科目3つのうち2つを確実にクリアすることが目的です。その後、税法科目を受験していくのですが、仮に他の税法で何年も苦戦することになったとしても、何とか税法1科目に合格できれば大学院で税法免除を目指すことができます。
- 法人税法または所得税法から受験していく
この2科目は税理士試験最難関で、どちらかは避けることができない科目です。最後にこの科目を残したまま挫折して税理士断念とならないようにすることが目的です。この科目を最初にクリアできれば、他の4科目に合格できる能力はあると言っても過言ではありません。少なくとも他の必修科目である簿記論と財務諸表論は努力次第で合格可能な科目と言えるので、他の税法で何年も苦戦することになったとしても最後は大学院で税法免除の選択も視野に入ります。
まとめ
税理士試験の科目選択は重大な問題でその選択は非常に難しいものです。できるだけ多くの税理士試験の受験生または経験者の生の声を聞くことをオススメします。その時に重要なのは、鵜呑みにするのではなく、参考意見としてご自身の決断の判断材料にすることです。
最終的には選択科目を決定したのであれば、その時点ではその決断が正しかったと信じてやり切ってください。迷いや不安を抱くことは誰しもありますが、そこで立ち止まって何もしなくなることほど無駄なことはないからです。もしも、一度選択した科目に迷いが生じた場合は、もう一度しっかり検討して、選択科目の継続または変更を決断しましょう。何度か受験した科目を変更して合格できたという人も存在するからです。
本記事の内容は、受験予備校の案内や他の受験記事でよく書かれる内容と少し違う内容が多い思います。それでも、こういった実態があることも事実であるということが、これから税理士試験の科目選択をされる際の参考にしていただけると幸いです。
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